女装して分かる痴漢の真実
女装の先にある境地として
女装についての細かい言及は無かったが、自分自身、1つだけ真理だと思っていることがある。
それは『いくら女装に熟達しても男性的な小汚い部分は必ず残る』ということである。
女装というのは不思議なもので、自分に合う髪型を探してみたり、可愛い洋服を身に着けてみたり、メイクを覚えたりなど、少しずつ女性と同質の経験を踏むことによって逆に自分の男性性、つまり『小汚い部分』が少しずつ浮き彫りになってくる。
いくらメイクをしてもヒゲを丁寧に抜いても、生まれ持った骨格や筋肉が鏡の前に立つオカマに『お前は男だ』という現実を突きつけてくるのだ。
なんてことを書く気持ちになったのは、最近たくさんRTしてもらったこのツイートがきっかけだったりする。
げんしけん二代目から登場した波戸賢二郎、可愛い「男の娘」というファンタジー要素をリアルな作風に持ち込んだクソキャラだと思っていたけれど、最新刊で女装の現実である「小汚い」部分にすごーーーく具体的に触れていてかなり高感度が上がった。 pic.twitter.com/YPYZRT34wt
— 小汚い女装太郎 (@ringoce) 2016年6月25日
アカウント凍結されたから画像だけ貼っとくね、俺の3万RT……
仕方がないのだ。男に生まれたのだから、手は強張っているし、顎や肩なんて特に目立つ。そして永久脱毛なり女性ホルモン投入でもしていない限りヒゲは永遠の課題だ。その全てを下手に女性に近付けようとすれば、当然歪む。だからといって何とか処理をしなければ『どこからどうみても男のオカマ』という、自分のプライドが許せない化物(元からバケモノだが)が誕生してしまう。自分の中の女装の一線として『声を発さなければ男と認識されない』程度には擬態をしたい、というものがあり、それは『惨めな自分ではない何かになりたい』という願望に直結しているのだ。
そしておれは1つの答えに辿り着いた。
『小汚い部分を受け入れ、隠す。』
受け入れたそのスタイルで俺は女装をして街中に繰り出す、本当の異常性癖者になってしまったのだ。今は体調やら実家暮らしがネックでなかなか街に繰り出せないが、着替える場所さえ用意して頂ければおれはどこでも……行きまーす!!!!!!!
女に化ける
などと上で偉そうに書いたが、別に女装のキャリアが長いわけではなく、まだ3年(もう3年なのか……)だったりする。今回のお話はそんな女装を覚えて数ヶ月目の自分の体験談だ。
女装を初めて何ヶ月目だったか、当時の俺は『ヤレそうなオタク女』をコンセプトに女装をしていた。どうやらそこそこ上手く化けることが出来ているようで、街中で大学デビューに失敗したような髪の毛ツンツンのキモ・オタクからナンパされたり、怪しそうなキャッチのお兄ちゃんに声を掛けられたりするようになっていた。
そのうちロリータ・ファッションに転向してから声を掛けてくる層が変わり、真面目そうで冴えないサラリーマンから「これから時間ありますか? ホテルに行きませんか?」などと援交を持ちかけられるようになった。
ファッションとナンパの相関関係については前記事をご一読にして頂ければ幸いである。
そんなわけで俺はとりあえずパッと見では男と分からない程度には女性に化けられるようになった。そして事件は起こる。痴漢のメッカと名高い埼京線で、遂に痴漢を体験することになるのだった。
今回はその時の体験ツイートをまとめて長文用に構成しなおした文章である。
埼京線に乗り込む
6月くらいのある日、諸用(?)で女装したまま赤羽に向かうことになっていた俺は池袋でパンパンの埼京線に乗り込んだ。学生時代には毎日のように乗っていて慣れていたはずだったが、やはり混んでいる。その日は休日ということもあり、いつにも増して人が多かった。揉みくちゃになりながらも何とか手すりに掴まって優先席の前をキープした。優先席は障害者優先、俺のような異常性癖者を座らせてくれてもいいんじゃないか? などとくだらないことを考えている、まさにその時だった。
『ケツに違和感がある』
端的に言うとそれだけだが、今まで体験したことのない感覚だった。
ケツに何かが触れていた。感触から何となく無機物ではないような気がした。
そして俺の後ろには、特有の加齢臭で分かったのだが、オッサンが立っていた。
少し逡巡して、俺はようやく今自分が置かれている現実を理解した。
『これ痴漢じゃん……』
初の痴漢体験
確かに俺は異常性癖者だが顔が良いならともかくオッサンには全く興味は無かったし、そもそも女性が性の基本対象だ。エッチで綺麗なお姉さんに乗車率何百%という身動きの取れない電車の中で痴漢をされるのは望むところだが、残念ながらそのようなアダルト・ビデオ的な経験はなかった。
こうして俺の痴漢処女はよく分からないオッサンによって奪われてしまった。
「うおぉ、マジで痴漢か? やべぇなぁ…」等と考えている(言語能力皆無である)うちに、ケツへの感触が右から左に移動するのを感じた。
『まじか……』
オッサンはとにかく執拗にケツを触ってきた。右から左、左から右、今度は止まって撫で回す。世の中の女性はこんなものに常日頃から警戒をしなければいけないのか……。こんな汚いオッサン(顔分かんないけど)にケツ触られなきゃならないのか……。
そう考えたとき俺の中で怒りに似た何かが湧き上がってきた。なんで俺はこんな汚いオッサン(顔見てないけど)にケツを触られなければならないんだ。確かに俺は小汚さを必死に隠して外出する頭がアレな女装野郎だが、汚いオッサンに無許可でケツを触られるいわれなんてない。
そんなことを考えているうちにオッサンの行為はエスカレートしてきた。手がケツから股に寄り、前に、前に、前に……?
待ってくれ、前はヤバい。何故なら俺にはポコチンがくっついているからだ。俺は本能的に身を逸らして何とかポコチンタッチを回避した。(タマキンも危なかった)
やるか?! 男にとって最悪のマジックワード「この人、痴漢です!」やるか?! と一瞬考えたが、残念ながら俺は女声を出すことは出来ない。つまり電車の中で「この人、痴漢です!」と声を上げたが最後、「この人、変質者です!」となり、駅員さんにオッサン共々連行されることになるのだ。
一度はポコチンタッチを回避したものの、オッサンはまだケツを触ってくる。キンタマギリギリのところを手が掠めた時は本当に絶叫するかと思った。俺はとにかく焦っていた。今になって冷静に考えてみればオッサンに男と気付かれたところで向こうには何をすることも出来ないのだが、とりあえず人生初の痴漢体験真っ最中の俺にそんなことを考える余裕はなく、ただひたすらオッサンにキンタマとポコチンを触られないようにすることに必死だった。
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STOP・痴漢
痴漢が始まってから何分が経過しただろう。オッサンは未だに俺のケツを触るのを止めようとしない。どうやら股に手を伸ばすとこちらが逃げることを察したのか、オッサンは再び執拗にケツだけを触り始めた。
俺の中の感情は怒りから焦りへ、焦りから虚無へと変化していた。もうどうでもいい。一刻も早くこの時間が終わってほしかった。汚いオッサン(顔は見ていない)にケツを触られる時間が一秒でも早く終わってほしかった。世の中の女性はいつもこんな目に合っているのか? 虚空を見つめているうちに(しかしケツは触られている)電車は徐々にスピードを落としていった。虚無すぎてアナウンスが耳に入っていなかったのだろう。目の前には既に「板橋」の看板が見えていた。
すると汚いオッサン(顔は見ていない)の手はスッとケツから離れていった。そうか、停車すると痴漢は手を放すんだ……。
俺は半ば放心状態のまま、人波に押し流されるまま電車のドアへと突き飛ばされていった。心身ともに疲弊していた。それでもせめて俺を痴漢してきたクソ野郎の顔だけは見ておかねばと、俺の中に残されたわずかな怒りをエネルギーに変えて男の方へと振り返る。
『あっ、普通のオッサンだ』
本当に普通のオッサンがそこにいた。どこにでもいそうな40~50代のオッサンというと全国の40~50代のオッサンに失礼だし俺を激詰めしてきた前の上司も40代のオッサンだったが(どうでもいい)、本当にどこにでもいそうな40~50代のオッサンが人波の中で無理矢理自分の立ち位置をキープして俺から距離を取っていた。そして俺は吐き出されるように板橋駅のホームに押し流された。
降りたくはないが否応なく人波に流された大勢の人たちが、再び電車の中へと戻っていく。その時の俺には電車の中に戻る気力が残されていなかった。電車のドアが閉まる。俺はヨロヨロと電車へと向き直りながら、憎きオッサンの姿を探していた。しかしさすがの満員電車、もはや中の人間を確認することは出来なかった。
板橋駅のホームにて
俺は夕暮れの板橋駅ホームに呆然と立ち尽くしていた。痴漢をされた。その事実だけが俺に残った。俺は項垂れながらその場にヘナヘナと力なく座り込んだ。
「大丈夫ですか?」
その声に俺は顔を上げた。座り込む俺の様子を見かねたのか、通りすがりの女性に声を掛けられたのだった。
「気分でも悪いんですか?」
はい、最悪です。
俺は心の中で答えた。
「駅員さん呼びましょうか?」
それだけは止めてください、最悪の事態になります。
フラフラの身体に喝を入れ、俺は何とか立ち上がった。
「本当に大丈夫ですか?」と女性は続ける。
『大丈夫です、ありがとうございます』という意思を込めて俺はペコリと軽く頭を下げた。
そしてそのままクルリと身をひるがえして歩き出す。
「ヒールのある靴は歩きにくいなぁ……」としみじみ実感しながら、異常性癖者は板橋駅のホームから逃げるように立ち去った。
おわりに
女性専用車両なんていうものができて久しいが、何かとインターネット上にネタを提供するのに事欠かないだけの存在だと思っていた。自分が実際に痴漢をされるまで「まーた女だけ社会的に優遇されやがって……」と心の中で舌打ちをするだけの存在だったが、痴漢という恐怖から開放されるという意味では本当に痴漢を逃れたい女性にとって必要なものだと認識を改めた。
まぁこれを見て思うところも色々とあるが、(女に扮した)男に対しても痴漢をする奴がいるくらいなんだから女なら誰でも痴漢の憂き目に合うのだろうなぁ。
女性に扮して外出するアレな奴もいるってこと、忘れないでください。おわり。
追記
諸事情により準備していた前エントリの後編テキストを上げることが出来なくなっちゃった。悲しい。次は何を書こうか全く決めてないので、またツイッターで投票機能なり何なり使ってみようと思います。